世界三大美女の一人であるクレオパトラは真珠を愛し、最高の装いとして着用していたことで有名です。その証拠に、プリニウスの『博物誌』に出てくる、有名な“クレオパトラ真珠を飲む”には、こんなくだりがあります。
贅沢なパーティーが何度も繰り返された。アントニウスは「こんな宴会にさぞ膨大な費用がかかったことであろうな。」と尋ねた。
クレオパトラは「私にとってこの程度の費用は、ほんのはした金でございます」と答え、「もし私が本当に贅沢な宴会と思うものに、ご列席なさりたいとお考えなら、約1万セステルチアかかる宴会をしつらえてお招きしましょう」と言った。
・・・(中略)・・・
クレオパトラは、「明日やってお目にかけましょう。もしも出来たら、どうなさいますか?」と賭けを挑んだ。アントニウスは賭けを受け入れ、部下の将軍の一人ブランクスを賭けの審判に指名した。その日の宴会は前日の宴会に比べて格別余計な費用が掛かっているようには見えなかった。
・・・(中略)・・・
クレオパトラは「今までの宴会の費用は全く取るに足りないものでした。これから私一人で1万セステルチアを使ってお目にかけましょう。」と言った。
彼女は酒杯に酢を入れて持ってくるよう命じた。
・・・(中略)・・・
素早く片方の耳から真珠を外して酢の中に落とした。誰もがびっくりし、息を止めて見つめるうちに、クレオパトラは液を一口にぐっと飲んでしまった。ついでもう一方の耳から真珠を外したが、賭けの審判ブランクスはあわてて彼女を止め、「勝負はついた、賭けは彼女の勝ちだ。」と宣言した。
天然真珠一粒が3千万円
クレオパトラが耳にしていた真珠は1粒が1万セステルチアです。1万セステルチアは、現在の通貨価値で約3千万円です。この話から、クレオパトラが生きていた時代、天然真珠は6千万円の値打ちがつくほど希少性の高いものだったことがわかります。
真珠は酢に溶ける?
真珠が酸に弱いことは周知の事実です。しかし、この話を読んで、真珠が酢の中で粉末ジュースのように、みるみる溶けてしまうイメージを持ってしまったなら、それは間違いです。
真珠はカルシウムの集合体で、酸に僅かずつ溶けるという性質を持っています。その点では、同じ成分である大理石と同じです。ところが構造面から言うと、真珠のカルシウムはたんぱく質の膜に包まれていて、このたんぱく質は酸に非常に強い性質を持っています。
従って、酢の中に真珠を入れると、小さな泡が付着し、少しずつ溶けるというのが本来の姿なのです。
『博物誌』のくだりは、クレオパトラが本物の真珠を酢に入れ、本当に溶けたようなふりをしながら、酢と一緒に丸飲みにしたのではないかと考えられています。